文部科学省が2023年3月に発表した、不登校の児童生徒に対する
支援策「COCOLOプラン」をご存知でしょうか?
このプランの策定によって、オンライン学習・ICT教材の利用や地域連携学習の取り組みが推進され、不登校生の「学びの選択肢」が大きく変わってきています。
文部科学省の「COCOLOプラン」とは
大きく分けて以下の3つの柱で取り組みを推進しています。
- 多様な学びの場の確保
- 学校内での支援: 支援ルームの設置や少人数制の授業など、学校内で多様な学びの場を設けます。
- 学校外の学習: オンライン学習や地域の学習施設の活用など、学校以外の場所でも学べる機会を提供します。
- 個別指導: それぞれの児童生徒の状況に合わせて、個別指導を行います。
- 早期発見・早期支援
- 教職員の研修: 不登校の早期発見や対応に関する教職員の研修を強化します。
- 保護者への支援: 保護者向けの相談窓口を設け、相談しやすい環境を整えます。
- 関係機関との連携: 学校、福祉機関、医療機関などが連携し、切れ目のない支援体制を構築します。
- 学校の雰囲気改善
- 多様な価値観の尊重: 多様な価値観を認め合い、誰もが安心して過ごせる学校づくりを進めます。
- 教職員の働き方改革: 教職員の負担を軽減し、子どもたちに向き合う時間を増やします。
この記事では、上に挙げた3つの柱のうち「多様な学びの場の確保」という部分について詳しくご紹介します。
COCOLOプランでは、不登校生や学びに困難を抱える生徒に向けて、多様な学習環境を提供する取り組みがなされています。
学校だけに頼らず、ICT(情報通信技術)を活用した教育や地域社会と連携した学びを推進。
不登校の背景にある複雑な要因を理解し、すべての子どもたちが自分のペースで安心して学べる環境・学ぶ喜びを感じられる環境を構築することが目指されています。
こういった取り組みにより、近年では「従来の学校に通わず、フリースクールや家庭学習を通じて学習を進める」という選択肢が飛躍的に増加しています!
不登校生の現状と学習上の課題
不登校の増加とその要因
近年、日本における不登校の児童生徒数は増加傾向にあります。
文部科学省の2023年の調査によると、小・中学校における不登校児童生徒数は約35万人(前年度約30万人)、11年連続で増加し、過去最多となっています。
引用元:令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果 概要
原因としては、いじめ、家庭環境、学力の格差、精神的な負担などさまざまな要因が挙げられます。
その子どもに必要なサポートは一人ひとり異なります。
従来の学校教育だけでは対応しきれない状況を受け、文部科学省は、不登校により教育にアクセスできない子どもたちをゼロにするため「誰一人取り残さない」を目標に、COCOLOプランを策定しました。
従来の学習環境の限界
従来の学校教育は「一律のカリキュラム」を基盤としています。
これが不登校生には合わない場合があります。
教室での授業形式や時間割が固定されていることが、かえって心理的なプレッシャーを与えるケースも少なくありません。
COCOLOプランの推進により、不登校の児童生徒が様々な場所で学びの機会を得られるようになること、場合によっては安心して学校に戻れるようになることが期待されています。
学びの多様化の必要性
学校の役割の再定義
「学校」とは単に学問を教える場ではなく、生徒が自己実現や社会とのつながりを築く場でもあります。
学びの多様化は、学校の役割をより柔軟かつ包括的に捉える視点から始まります。
そこでCOCOLOプランでは、「学びの多様化学校」(いわゆる不登校特例校)の設立も積極的に推し進めています。
個々の生徒に応じた学びの提供
不登校生にとっては、画一的な教育ではなく、彼らの状況や興味に応じた学習スタイルが重要です。
そのため、COCOLOプランでは、オンライン学習や地域連携型教育といった選択肢を広げています。
従来の学校とは異なるアプローチで、個別支援を中心とした柔軟なカリキュラムを提供。
子ども一人ひとりのペースや、必要としているスキルに合わせた学びを実現できる「学びの多様化学校」や「フリースクール」の利用、「地域学習」も注目されています。
COCOLOプランにおける多様な学習方法
不登校生の助けとなる効果的な学習方法としては、例えば次に挙げる4つのようなものがあります。
①オンライン学習・ICT教材の活用
オンライン学習は、インターネットを利用して授業を受ける方法で、不登校生に柔軟な学びの機会を提供します。
動画教材や双方向のウェブ授業を通じて、自宅にいながらも学校と同じレベルの学びを体験できます。
近年では、ICT(情報通信技術)を活用した学習教材も豊富になってきており、パソコンやタブレット、スマートフォンなどを用いて、動画、音声、アニメーションなど、多様な形式で学習コンテンツを提供しています。
時間や場所にとらわれず、自分のペースで学習を進めることができるのが魅力ですね。
ゲーム感覚で学習できるものや、自分の興味関心に合ったコンテンツを選ぶことで、学習意欲を高めることも期待できます。
下記記事では不登校におすすめのタブレット学習とオンライン家庭教師をご紹介しています。
②個別指導と対話型学習
個別指導では、生徒一人ひとりのニーズに応じた指導が行われるのが特徴です。
集団授業のように、周りのペースに合わせることなく、自分の理解度や進度に合わせて学習を進めることができます。
集団でのプレッシャーを感じることなく、リラックスした状態で学習できる環境も大切なお子さんもいますよね。
対話型学習とは、教師と生徒、または生徒同士が対話を通して学びを深める学習スタイルです。
生徒が主体的に考え、意見交換を行いながら、知識や理解を深めていきます。学ぶ意欲を引き出すのに効果的です。
③地域社会を活用した学び
地域の企業やNPOと連携し、生徒が社会体験を通じて学ぶ「地域学習」が注目されています。
地域社会との関わりの中で実践的に学び、地域社会の一員としての自覚と責任を育む学習活動です。
実際に地域に出て、人々と触れ合い、地域の問題や課題を考え解決していく中で、深い学びを得ることができます。
「学ぶ意義」についてより深く感じることができるとも言われています。
④アクティブ・ラーニングの導入
アクティブ・ラーニングとは、従来の一方的な講義形式とは異なり、生徒が主体的に学習に参加し、自ら考え、行動することを重視した学習方法です。
自発的に課題を設定し解決策を考えることで、主体的な学びを促進し、深い理解と知識の定着を目指します。
不登校生にとっては、自由度の高いこの方法がストレスを軽減する場合があります。
「学びの多様化学校」の取り組み事例
不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校、いわゆる不登校特例校が、COCOLOプランの策定に伴い新たに「学びの多様化学校」という名称に変更されました。
2024年時点で35校が開校しており、うち21校が公立学校、14校は私立学校。既存の学級に所属しつつ通うフリースクールとは違って「法律上の学校」にあたります。通学には転校手続きが必要です。
COCOLOプランでは、将来的には全国で300校の開校を目指しています。開校中の学びの多様化学校一覧はこちらをご覧ください。
モデル校の紹介
学びの多様化学校では、不登校生に特化したカリキュラムを提供しています。
一つの学級は数人から十数人の構成で、教員が個別に対応しやすい環境が整っており、例えばフリースクール型の教育機関や、インターネットを活用した通信制高校なども注目されています。
学校に行けず、学習できなかった部分などの勉強の「学び直し」や、主体的な活動を行う時間を増やしたりと、独自の柔軟なカリキュラムによって授業が展開されます。
教室での勉強についていけない経験の積み重ねで自信を喪失し、学校へ行く意欲が無くなってしまう不登校生もいます。
自分のペースで学習が進められるこれらの学校で過ごすことで、自分ができることを着実に増やし、自信を回復させる効果が期待できます。
精神的なストレスや不安を抱えている子どものためにカウンセラーが常駐していたり、いつでも居場所にできる教室以外の場所が用意されたりといった工夫もされています。
成功事例とその成果
あるモデル校では、オンライン授業と週1回の対面授業を組み合わせることで、不登校生の復学率が大幅に向上したケースがあります。
社会能力面の不安を解消するため、グループワークなど、社会的な能力を育成する時間を従来の学級よりも多くとっている学校が多く、具体例として「コミュニケーションスキルトレーニング科」や「表現科」といった科目を新設し、コミュニケーションスキルを高める指導を行って成果を出している学校もあります。
また、プロジェクト学習を通じて、学びへのモチベーションを取り戻した生徒の体験談も報告されています。
「ICT教材」に期待される役割
「学びの多様化教室」のような、家の外の教室に通うことでモチベーションを保ちやすくなる子どももいれば、家の中の落ち着ける環境で学習を進めるのが適している子どももいます。
家庭学習が向いている子ども向けの支援としては「学習内容を学校に提出することで、出席扱いにする制度」があり、利用する方も増えています。
デジタル教材の可能性
ICT教材(タブレット端末や学習アプリ)では、生徒の学習ペースに合わせた指導を簡単に実現できます。
特に不登校生にとっては、時間や場所を選ばず学べる利便性が大きな魅力です。
AI技術を取り入れ、一人ひとりの学習進度や理解度を細かく分析し、最適な学習内容や難易度を提案する教材も増えています。従来の一斉授業では難しかった、個々のニーズに合わせ最適化された学習が可能になります。
動画、音声、ゲームなど、様々な形式のコンテンツを提供できるため、子どもの興味関心に合わせた学習スタイルが選択できます。
また、学習の進捗状況を可視化して「達成感」を提供することで、学習意欲を維持するのにも適しています。
自宅での学習や個別の進度に応じた学びを支援するツールとして、不登校生にとって非常に有効です。
不登校生に適したICTツールの具体例
例えば、「進研ゼミ」や「すらら」などの家庭向けオンライン学習サービス、また特別支援学校で活用される教材アプリなどがあります。
これらのツールは、ゲーム感覚で学べる機能を備え、学ぶ楽しさを引き出します。
不登校生におすすめのICT教材・オンライン塾について解説している記事もありますので、是非ご覧になってみてください。
不登校生への支援体制の強化
教育カウンセリングと心理的サポート
不登校生には、学びに加えた心理的なサポートも重要です。
COCOLOプランでは、この支援体制の強化も進められています。
教育カウンセラーやスクールカウンセラーは、生徒や保護者の不安を取り除き、学びの再スタートをサポートする役割を果たします。
家庭との連携
家庭環境は、不登校生の学びを支える重要な要素です。
保護者向けの学習ガイドや相談窓口を設置することで、学校と家庭が一体となった支援が可能となります。また、家庭内で活用できるICT教材の提供も進んでいます。
校外での学習成果を正当に評価
令和6年8月、文部科学省が「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について(通知)」を発表。学校教育法施行規則が改正され、不登校児童生徒が自宅や教育支援センターで行った学習成果も成績評価に反映されることが明示されました。
これまで「出席扱い日数」としてしか反映されなかった校外での学習が、成績として評価されるよう制度改正が進んでいます!
出席のみならず、学習の実績そのものが成績に反映されることで、不登校児童生徒の努力が適切に評価され、さらなる学びへの意欲を高めることが期待されます。
COCOLOプランの今後の課題と展望
COCOLOプランが発表されたことで、不登校の問題に対する社会全体の関心が高まり、多くの学校や自治体で取り組みが始まっています。
COCOLOプランの課題
COCOLOプランは一部地域での試験導入を経て、全国規模での展開を目指しています。しかし、都市部と地方部、学校間で、プランの実施状況に大きな差が見られます。
特にICT環境の整備は、地方部での取り組み強化が急務です。
多くの学校では、プランを推進するための十分な予算や人員が確保できていないという課題もあります。教員は、従来の業務に加えて、COCOLOプランの取り組みにも携わる必要があり、負担が増大しているという声も聞かれます。
COCOLOプランの効果を数値で測ることは難しく、定量的な評価が進んでいないという課題もあります。
政策の改善点と提言
COCOLOプランがより効果を発揮するためには、以下のことが求められます。
- 国、地方自治体、学校、家庭、地域社会が連携して取り組むこと
- 教員の負担軽減と、専門性の高い人材の確保
- 効果的な評価指標の開発
- 個々の児童生徒のニーズに合わせた柔軟な対応
政策面では、学びの選択肢をさらに広げるための柔軟な制度設計が求められています。例えば、家庭学習の認定制度や、地域学習を評価に反映させる仕組みを更に整えることが有効とされています。
COCOLOプランは、まだ始まったばかりの取り組みです。
今後、より多くの子どもたちが安心して学校に通えるよう、このプランが着実に進展していくことが期待されます。
不登校生に関するよくある質問
まとめ:多様な学びの未来に向けて
不登校生にとって、学びの多様化は教育の壁を打ち破る希望の光です。
COCOLOプランを通じて、不登校生の学び方の選択肢が大幅に増え、ご家族の支えになる相談窓口やサービスも拡充してきました。
不登校=子育ての失敗ではありません。子どもが困難に直面しているときに、どのようにサポートするかが重要です。一人で抱え込まず、周りの人に頼ったり、専門家の力を借りることが大切です。
一人ひとりに合った学習環境が整うことで、子どもたちの未来は明るいものになるでしょう。
学校や地域、家庭が協力して支援を行い、「学びたい」という気持ちを最大限に引き出せる社会を築くことが求められています。